棒だら

スーパーの食品売り場で大きな「棒だら」がぶら下がっているのを見付けた。

自分の喰いたいものを自分で作るようになってから10年が過ぎようとしている、その間、棒だらの料理を一度もしたことがないことに思い当たった。
棒だらはおせち料理の食材の一つ、そんな風な妙な思い込みがあった、そんな所為で普段の日に見付けても手を出すことがなかったのだろうか。
おせち料理はカミサンの領域、これまで領域侵犯をしたことはない)

ぶら下がっている棒だらを見ていて、ふと、井波律子さん(国際日本文化研究センター名誉教授・中国文学)のエッセイ集「一陽来復」におせち料理で棒だらの煮物をつくる一節があったようだと思いはじめていた。

帰って「一陽来復」を取り出してみると確かにあった。

「初恋思う長い夜」という章にある。
少し長くなるが引用してみよう。
「・・・・クリスマスが過ぎるころから、「おせち」などという立派なごちそうはとても作れない私も、やや浮足立って、お正月の準備にとりかかる構えとなる。近頃、デパートなどでは、十月後半から早くも「おせち」の見本が並ぶが、私は見て楽しむだけで、何とか自分で作ることにしている。
といっても、さほど品数が作れるわけでもないが、必ず作るのは「棒だら」の煮物である。
丹念に灰汁をすくいとりながら、ゆっくり棒だらを煮ていると、家のなかに独特の匂いがたちこめ、お正月近しという気分がだんだん高まってくる。・・・」

棒だらを煮込む独特な匂い、一度その匂いをかいでみたいと思い始めている。
けっこう手間暇のかかる煮物のようだがやってみる価値はありそうだ。