我儘な味覚(3)

時折冷たい雨の降るどんよりした一日だった。
便りをくれたIさんへの返信を書いた後は半ば呆けていた。
急いで読み終えてしまわなければならない「農耕起源の人類史」を読む気も起らず、録画しておいた幾つかのTV番組を見る。

その内の一つ「すばらしきサカナたち・大自然の恵みを食らう」(地球ドラマチック、NHKEテレ)を見ていて、カラスミのパスタやマグロの酒盗のパスタが無性に食いたくなっていた。
カラスミのパスタは細目のスパゲティで、マグロの酒盗フェットチーネが良いだろうか、色々考えるだけで楽しくなっていた。
食いたいと思うともう我慢出来ないのだ、カラスミ酒盗amazonに注文する。

パソコンをオフって居間に戻りカミサンの顔を見た時あっと思った。
webで注文している時は食いたい思いが先立っていて、カミサンのこと等は何も考えていなかったのだ。
カラスミの摩り下ろしを絡めたパスタにはカミサンもOKするかもしれないが、酒盗のパスタには恐らく手を出すまい。あるいは両方共駄目かもしれない。
アンチョビの入ったパスタやニンニク多めのパスタには最近全く手を出さなくなっている。
私もケチャップ系のものには殆ど手を出さなくなっているのだ。

何時の頃からかカミサンも私も我儘な味覚になっている。
味や素材に関してお互い妥協できなくなっているのだ。
隔日に料理を始めてからほぼ10年になるが、つい最近までカミサンは私の造ったものに手を出さないということはなかった。
嫌いなものがいろいろあっただろうに我慢して喰ってくれていたのだ。
感謝しなければなるまい。

お互いの我儘な味覚、残り少ない時間だから良しとしよう。