或る便り

古い知人のIさんから手紙を頂戴した。
情報システム関係の仕事をしていた時に知り合った方だから30年以上の付き合いになる。
或る大手ソフトウエア会社の取締役営業部長をされていたIさんは磊落な方だった。
無理な依頼も気持よく引き受けてくれたし、仕事関係以外の話をするのも楽しみな方だった。
そんなIさんからの手紙の骨太な書体で書かれた表書きを暫く見入っていた。

リタイアして10年、旧い知人とはお互い音信不通になってしまい、今も折々の便りのやり取りがあるのは僅かな数になってしまっている。
その便りのやり取りもEメールが殆どだ。
そんな中Iさんは手書きの手紙やハガキを寄越してくれる。
ハガキなどには俳画風の墨絵に一筆彩色した絵や芋版を彫りましたといってほのぼのとした版画を添えてくれるのだ。

Eメールという簡便さを拒否して今も頑固に手書きに拘ってくれるIさんの便り、封を切るのも忘れて表書きや裏書に見入っていた。
いろんな出来事が思い出される、苦さも酸っぱさもあるが大半は愉快なものだ。

老兵は過去の思い出を喰うという。
その思い出すことが華やかな時期のことであればあるほど喰らうことが楽しいのだという。
残り少ない時間だ、未来を喰えないのだ、だから楽しく喰える過去があることに感謝しなければなるまい。

Iさんはリタイアしてから奥さんの故郷に帰っている、私の生まれ故郷もIさんの在所からそんなに遠くない所だ、帰郷の折には一度尋ねて行かねばならないが、故郷が遠くなっているのだ。
便りに誘われてシルバーマークを付けた車をぶっ飛ばしてみるか。