湖岸の流木

処女湖、天狗岩、石田川ダム上流方面(高島市今津)へ紅葉狩りに出掛けてみたが既に全山落葉。それに処女湖にも石田川ダムにもダム工事の為だろう全く水が無いのだ。
山々の秋彩も水面に映りこんだ華やぎも見られずだったからカメラを取り出すこともなかった。
昼食も摂らず早く帰りたい思いで落石のある山道を走る。これは相当に苦痛だった。

遅い昼食を風車村近くの湖岸の東屋で摂る。
冷めたコーヒーとサンドイッチの昼食、何とも言えず惨めだった。

湖岸に打ち上げられた流木を見る。
今年の春この湖岸に来た時には気付かなかった。

流木は切り倒されたものではない。
どこかの浜が侵食され浜欠けを起こした時、根こそぎ倒れたのだ。
木肌の感じからしてかなりの年月が経っているように見える。
長い間、湖の中を彷徨っていたのだろう。

この流木にレンズを向けていて、ウィリアム・ブルーイット(訳 岩本正恵)の「極北の動物誌」に収められている「旅をする木」のことを鮮やかに思い出していた。
この「極北の動物誌」を10年ほど前に手に入れ、それ以来繰り返し読んできた。
ことに「旅をする木」が好きだったから何度も何度も読んでいた。

目の前の流木と「旅をする木」の挿絵の木とが瓜二つなのに驚く。
紅葉撮りが不発だったことも落石のある山道のことも、冷めたコーヒーとサンドイッチの惨めな昼食のことも、湖岸の流木が吹き飛ばしてくれたようだ。