小さなナイフ

書斎の整理にかかってから今日で四日目になるが、一向に捗らない。
思いのほかスクラップの量が多いのだ。
それに処分する為にも全部に眼を通しておこうとしているからなおさらだ。
何処まで続くぬかるみぞ!こんな感じになってしまっている。

こんな作業をしていて、今では車のキーホルダーにぶら下がっている、小さなナイフに纏わる様々なことを思い出していた。小さな小さなナイフなのだ。

この小さなナイフを新聞や雑誌の切り抜き用に使い始めて、半世紀以上の時間が過ぎている。

通勤途上や出張の際などで、切り取っておきたい記事を見付けた時に使っていたのだ。
スクラップにするため雑誌のページや新聞を引き千切っている人を、電車の中などでしばしば見かけたこともあるが、私はそのバリバリ破るという行為が何とも苦手だった。
そんなこともあって、京都の菊一文字の店頭で見かけて買い求めたのだ。

思い返してみるに、インタネットなどという便利な情報収集手段のない頃は、スクラップはアイデアのソースだったから、この小さな小さなナイフが重要な役割を担っていたのだ。
ビジネスだけでなく虫撮りの為にも役立ってくれた。
しかし、リタイアしてから一〇年、この小さなナイフを使うということが全くないのだ。

小さな小さなナイフ、小さいけれども老兵には重要な一品だ、コイツでスクラップしてみたい、
そんな思いは青春や朱夏への郷愁だろうか。