老いのかたち(15)

今日は循環器科での定期健診の日、待合室で長く待たされるのが苦痛だったから、毎回早めに家を出ることにしているのだが、今朝はカミサンに起こされるまで寝坊だった。
ケイタイのアラームをセットしておいたのに気が付かなかったのだ。
お陰で遅い順番になり長い苦行の時間が続いた。

今日はこの長い苦行の時間中に二つの老いのかたちを見た。
自分の老いのかたちを意識すると三の老いのかたちだ。

苦行の時間をやり過ごすためにいつも持参した本を読むことにしている。
今回は「昆虫の誕生・一千万種への進化と分化」石川良輔著(中公新書)を持ち出していた。
隣に座っている人も本を読んでいた。
その人はガンパッチとエルボーパッチの付いたヘリンボンのツイードのジャケットを着ていた。
柔和な顔付きの白髪の老爺、ツイードジャケットの着こなしが何とも言えず好いのだ。
看護師さんに呼ばれて立ち上がった時、手に持っていた本を椅子の上に置く。
その人が読んでいる本が気になっていたので、思わず横目で覗きこんでしまった。
本の書名は「生命にとって塩とは何か」だった。

続いて私の名前が呼ばれ、血圧と体重について聞かれる。
病院に来ると必ず行う血圧と体重測定を忘れているのだ、急いで測定に行く。
血圧を測定していて「そんなやり方じゃ駄目ですよ」という大きな声に驚き右隣を見る。
ダウンジャケットを着た老爺がそのまま腕を測定器に突っ込もうとしていたのだ。
またも大きな声がする「手を出したり入れたりしたら計れませんよ、おじいちゃん」
注意しているのは付き添いの娘のようだ、大きな声は老爺が相当に耳が遠いのだろう。
老爺は娘の注意にもかかわらず測定器に入れた腕を何度も出し入れしているようだった。

老いのかたち、様々な老いのかたちがある中で、明日の自分の老いのかたちはどんなかたちになっているのだろうか、ふと不安になる。

病院の庭で寒咲きのバラを見る。

名前は分からないがジャムにしたら美味そうな花びらに見えた。
何でも一度は口にしてみたい、そんな好奇心がある間はボケないですみますよ。
老兵に言い聞かせていた。