月見草

「もう歳ですから車での長距離旅行は控えて下さいよ」そんな娘の注意を聞きながらも、車で帰省することにした。
高速道路ではついアクセルを踏み込むことがあり、カミサンに何度か注意される。
そんな注意の後、走行車線をゆっくり走っていて、道路脇の斜面に月見草が連続して咲いているのを見る。
月見草は少し萎れかかっているようで夜のあの咲き始めのピンとした様子はないが、それでも素晴らしいと思っていた。
神戸Jctから山陽自動車道に入りしばらく走っていると、月見草の群落ともいえる光景を見る。車を停めることが出来れば停めたいと思ったほどの見事さだった。

この月見草を眺めやりながら、ふと上林暁の小説に月見草のことが書かれている作品のあったことを思い出していた。
何という題名だったか思い出すのに時間がかかり、思い出したのは神戸淡路鳴門自動車道の洲本ICを過ぎた頃だった。「花の精」だ。

読んだのはもう随分昔のことだからその物語の内容はよく覚えてはいないが、植木職人に大事にしていた庭の月見草を雑草扱いにされ切り払われたこと、電車に乗って遠くまで月見草を探しに行ったこと、妻が精神を病んで入院したこと等をおぼろげながら思い出していた。

月見草に来る虫は何だったろうか。
車窓を飛び去る月見草を眺めながら虫撮りのことをも考えていた。