相谷熊原土偶

安土城考古博物館で開催されている講座「相谷熊原土偶の源流を探る」講師松室孝樹(滋賀県文化財保護協会)に行って来た。
相谷熊原遺跡の概要や発掘調査の結果などの話と、そこから出土した縄文時代草創期の土偶について、面白い話が聞けた。
殊に「相谷熊原土偶が出現する背景」に関する話などはいろんな点で参考になる。

講座の後展示されている実物の「相谷熊原土偶」を見る。
3cm強のその土偶は4面ガラス張りの中で、豊満な胸と魅力的な腰を見せていた。
この握り締めれば掌にスッポリ隠れてしまう大きさから、出産時に女性がこれを握りしめていたのではないか、という説を唱えている学者もいるとのこと。
また頸元に開いている穴はカミの宿る場所と精霊が潜り込む場所だと言う研究者もいる由。

そんな講座の話を思い出しながら土偶が造られる光景、祭祀に用いられたり、竪穴住居の特殊な場所に置かれている光景などを想像していた時、不意に、井上靖の作品・短編小説の「漆胡樽」のことを思い出していた。

正倉院御物の漆胡樽に触発されて漆胡樽の流転とそれにまつわる人々を描いた小説だ。
読んだのは40年近くも前だ(新潮社出版の井上靖文庫・全26冊を夢中で読んでいた頃)
詳細は覚えてはいないが一個の漆胡樽を見たことから素晴らしいロマンを紡ぎ出されていた。

自分だったらこの豊満な土偶からどんなロマンを書き上げられるだろうか、そんな不遜な想像をしていたのだ。それともう一つはこの小さな土偶を主体にした時どんな風景写真が撮れるだろうかなどと考えていた。
楽しい一日だった。