ユスリカと毛鉤

今日は午後1時半から写真展の受付当番の日。
自宅で居る時はこの時間帯は午睡の時間なのだ。
受付で居眠りもなるまいと必死で眠気を噛み殺していたが、それでも居眠りしたようだ。

眠気覚ましに缶コーヒーを飲みながら外を眺めていた時、ゆっくりと小さな虫がガラス戸の上から下りて来た。ユスリカだ。

こんなに間近でユスリカを見るのは初めてだ。
コンデジをマクロモードにしてヤツを撮る。

このユスリカで思い出したものがある。
ユスリカに似せて作られたフライフィッシング用の毛鉤のことだ。

小さなデザイン事務所を経営していた知人Fは、登山と渓流釣りと写真が趣味の人だった。
それに何事にも凝り性だったから、フライ用の手作りの毛鉤を何百と持っていた。
B4サイズのケースにいろんな毛鉤が満載されており、まるで色鮮やかな芸術品のようなのもあった。見ているだけで楽しかった。

何度か渓流釣りに連れていって貰ったことがある。
手ほどきも承けた。

和歌山県の古座川の上流へイワナを釣りに行った時、日頃温厚なFさんがここまで怒るかと思うほどの凄まじさで怒ったことがある。
怒られたのは私。
Fさんや他の仲間2人は何匹かの獲物を釣り上げていたが、半日近く経っても私は零匹。
釣れない言い訳を私は仲間にブツクサ言ったようだ。
その時少し上流の岩の上にいたFさんが吠えた。

「チンタラチンタラ竿を振り回しているんだ。川面や水の流れをどこまで観察しているんだ。
毛鉤の流し方一つにしてもお前の毛鉤は死んでいる。それで魚を騙せると思っているのか。
朝からお前の釣り方を見ていたがただ竿を振り回しているだけで、ポイントを探しそこに毛鉤を投げ込もう、そんな真剣さなど感じられん。釣れなくて当然だ。」

ユスリカには20数年前のその時の情景が重なる。
「遊びだからこそ真剣に取り組め」今は亡きFさんの声が聞こえそうだ。