棚田道を歩く

比良連山の南端、霊仙山の麓の雑木林と冬枯れの棚田道をのんびり歩く。
春の田拵えの準備だろう土手の補修をしている人を見掛けた以外は人に会わずだ、自分一人だけの山野のようで妙にウキウキした気分だった。
棚田の片隅で蝋梅の花を見る。

棚田は延々と続く獣除けの柵で厳重に囲われているが、何処かに綻びがあるのだろうか、棚田道にはシカの足跡が幾つも残されている。
耕作放棄された棚田の中の道は獣道に変わっていた。
新しいと思われる足跡や糞も残されていた。
この足跡をたどるが、しばらくして断念する。
シカは谷川の土手の急坂を登って上の棚田に入っているのだ、2・3年前までだったら急坂も登っていっただろうが老躯にはそれをやってのける足腰の弾力性は失せている。

霊仙山山麓の棚田は旨い米のとれる所だと聞いていたが、今ではかなりの田が耕作放棄されている。
セイタカアワダチソウやカヤが茂る棚田だけでなく、耕作放棄されて歳月の経っている田ではクマザサが繁茂し雑木が背を高くしている。
営々と耕し続けられてきた棚田が原野に返っているのを見るのは、何とも物悲しい。
土手の補修をしている人の向うの笹の原も昔はいい棚田だったが、今では見る影もない。

シカが登っていった谷側沿いの土手や道筋では、山蕗やヤマウドも採れたが現在ではクマザサや蔓草に覆われていてその道を辿ることさえ出来ないのだ、もう昔の姿に戻ることはないのだろう。

不思議と鳥を見ない日だった。