人形2体

冷蔵庫の野菜室の中で皮付きのトウモロコシを見た時、不意にトウモロコシの皮で作られた人形のことを思い出し、本箱の最上段奥からその人形を取り出した。

この人形を貰ったのは30数年も前。
ある大手コンピュータメーカのプログラマーだったOさんから、チェコ土産として貰ったものだ。
もう一体の人形もOさんから頂いたものだと思うが、この人形についての記憶は曖昧だ。


Oさんは凄腕のプログラマーだったが同時に一人歩きのバックパッカーだった。
この旅好きが昂じてコンピュータメーカーを辞め、ソフトウエア会社を立ち上げていた。
最初の2・3年は厳しかったようだが、その後は順調に業績を拡大していたのと優秀なパートナーがいたお陰で、プロジェクトなどが一段落するとバックパッカーの旅に出ていたようだ。

Oさんは小柄な美人だったが斗酒なを辞せずという強者だった。
そんなOさんもお元気だったら80歳半ばになっているはずだ、どんなお婆さんだろうか。

人形2体、ここからいろんな事が思い出されるがそれらは長い歳月の果てのものだ。
誰かが言っていた、思い出は瓶に閉じ込めた酒と同じだ、歳月とともに発酵し変化し、それは閉じ込めた時のものではないのだ、老体は飲んではならない、と。