猪の食痕

雑木林へシュンランを探しに出掛け、思いがけない光景を眼にした。
雑木林に通じる道や雑木林の斜面、そして近くの竹薮のいたる所が猪に掘り返されているのだ。
もう随分昔から比良連山山麓の雑木林や竹薮に潜り込んでいるが、これほど酷く荒らされているのを見たことはなかった。


竹薮の荒れ様は猪がタケノコを求めて掘り返した痕なのだ、蹄の跡も残されている。
猪は非常に鋭い嗅覚の持ち主だし、タケノコが大好物故に土中深くのタケノコをも探り当て喰ってしまうという。
いつだったか今津町の奥へ残雪を撮りに行った時、棚田の上の小さな竹林の周囲に電線を張り巡らせている老夫婦に出会ったことがある。
5・60センチ程の背の低い柵を拵えているところだったので、物珍しさから声をかけた。
獣除けの柵は人の背丈の倍ほどが普通だったからその背の低い柵が気になったのだ。
「シシ除けの電気柵なんじゃよ、鹿のように柵を飛び越えることがないんで、やっこさんの鼻面あたりに電気通しておけばいいのよ」
この時初めて猪が鋭い嗅覚の持ち主でありタケノコが大好物だと教えられたのだ。
「家族連れで来ると二晩か三晩の間に竹林は全滅じゃよ」老爺は棚田の向うの山裾の大きな竹林を指差しながら説明してくれた。

雑木林の掘り返された痕はミミズなどを探した名残りだろう。
点々と散らばる猪の作業の為に目的のシュンランは見つけられずだった。

雑木林に入る入口の熊笹の上で、越冬明けのヒオドシチョウ、オツネントンボ、キチョウを見た。
ナナホシテントウ、ビロードツリアブ、クサキリの仲間も見た。


藪漕ぎ出来ればヒオドシチョウもオツネントンボも追いかけられただろうが、背丈もある藪の中へ入る体力がない。撮れずだ。