スギカミキリ

朝の散歩の折、杉の木でスギカミキリを見付けた。

このスギカミキリのことを知ったのは、10数年前、限界集落や廃村の風景に夢中になっていた頃だ。
3月の終わり頃、ある限界集落を訪ねようと山道を歩いていた時、杉林の中で木に幅広の紙テープ状のものを巻きつけている老夫婦を見かけ挨拶をした。
山歩きの時の簡単な挨拶のつもりだったが、媼は仕事の手を止め杉林の中から降りてきた。
「爺さんもわたしも耳が遠いんでね」
「ご精が出ますね。伐採の準備ですか」と声をかけたのが悪かったのだ。
しまったと思ったがもう遅い。
仕事の手を止めたことを詫び、テープを木に巻いているのは伐採の準備ですかと訪ね直した。
「ああ、あれな、「はちかみ」防止のためよ」
はちかみ、初めて聞く言葉だった。はちかみですか、と漏らしたことで媼は私が理解できないことに気付いたのだろう、杉の木を食い荒らすカミキリが産卵する前に粘着テープを木に巻きつけ、カミキリを捕獲する、そんな旨の説明をぽつりぽつりとしてくれた。

スギカミキリの幼虫が穿孔害虫としてスギやヒノキを食害し、時に林業に大きなダメージを与えることや、スギカミキリの生態を詳しく知ったのは老夫婦に会ってから随分後になってからだった。

桜の咲く頃山歩きをしていて、このカミキリ(スギカミキリ)を見付けたりすると、この時の媼とのやりとりを思い出していた。