枇杷の花

谷間の畑で枇杷の花が咲いているのを見付け草の生い茂った細道を下りてみた。

枇杷の白い花は小さくて地味な上に、この花に虫たちが来ているのを見たことがない。
虫撮りの舞台にはなり得ない花なのにこの時季になると不思議と気にかかるのだ。
思い出せない何かが記憶の深みに沈み込んでいて、枇杷の花を見つけるとその何かがほんのすこしだけ頭をもたげるようだ。

一つだけ思い出したものがある、山頭火の句だ。
 誰か来そうな空が曇っている枇杷の花

草の生い茂った畑道では弱々しい虫の声を耳にしていた。
鳴いているのはどんな虫なんだろうか、数種類の鳴き声が聞こえてくるのだ。
寒さで命尽きるまで鳴き続けるのか。

帰り道、道端に生えている小さな山椒の木にアゲハの幼虫がいるのを見付ける。
こんなに遅い時季に幼虫を見たのは初めてだ。

うまく蛹化出来るだろうか。