ウチワヤンマ

7月の初め、それまで乗っていた車から一回り小さい車に乗り換えた。
3000ccから1600ccへの乗り換えだから加速性能には何かと不満だが、小型車になったが故の便利さが幾つかある。
その一つが道端のちょっとしたスペースに車を停めることが出来る事だ。
今日も琵琶湖畔の田圃で稲刈りをしているのを見つけ車を止めた。

相当に使い古した手押しの稲刈り機を使って小柄な農夫が一人で作業しているのだ。
赤いボディの稲刈り機、被っている麦わら帽子、首に巻いたタオル、作業着、そしてその主の上にも長い歳月が流れているようだ。
80歳近いと思われる人だった。

湖畔の湿田で手押しの稲刈り機を操るのに老農夫はかなり手こずっていた。
ひと声かけて撮りたかったが湿田で苦労しているのを見ていると声を掛けるのが躊躇われた。

その田圃の脇道で佇んでいた時、ウチワヤンマが田圃の土手向こうにいるのを見付けた。

ウチワヤンマは何度も飛び出しては戻って来てくれた。
至近距離にレンズを近づけると飛び出しては行くものの間なしに帰ってくる。
まるでポーズをとるかのように大きな目玉をくるくる回しては流し目を送ってくるのだ。
これほど長く一匹のトンボと向き合ったことはこれまでになかった。
呆け暮らしをせずに済む、好日な一日だった。