トビの羽

11月半ばくらいから風のない暖かい夕方にトビの群舞をよく見かけたが、さすがに今日のような北風の吹き荒れる寒い日には飛ぶ姿は無かった。
群舞は見られなかったが、雑木林への道でトビの尾羽を拾った。

トビの羽は既に何本か持っている。

虫撮りの折などで見付けると持ち帰っていたのだ。
それというのも、この羽を使って羽ペンを作り、飾り文字やイラストを描いてみたかったのだ。

戦線から離脱してしまった老兵は旧い栄光や記憶を喰って生きているという。
未来を喰う事がかなわない故に過去を喰っているのだ。
私もいつの頃からか、ちょっとした出来事や今日拾ったトビの羽のような細片から記憶の深みに眠っているものを思い出し、懐かしがっている。過去を喰っているのだ。

旧い知人のKさんが羽ペンを使って素晴らしい絵を描いていた。
Kさんはある特化した情報システム関連のソフトウエアハウスを経営していた。
Kさんと知り合ったのは某コンピュータ会社の一週間のセミナーでだった。
最初はとっつきにくい感じの人だったが、ワークショップで同じチームになり昵懇になった。

Kさんは非常にハードな日々を過ごしてたが、それでもしばしば羽ペンで絵を描いていると聞いていた。
「頭をリセットする前にこの頼りない羽ペンで何かを描くのが習慣になっていましてね」
そんなことを聞いたことがある。

自分で削り出した羽ペンを何本も持っていたし、特別に作らせたという手漉きの和紙にコーティングした用紙も何種類か持っていた。

尊敬する先輩だった、故人になられて13年近くになる。

手元のトビの羽を削って羽ペンを作りイラストを描いてみたくなっている。

私も何種類かの羽ペンが作れそうだ。