オケラ

早朝のAさんの菜園でオケラを見つけた。
田植え前の田拵えしている田んぼの土手などでオケラを見かけることがあるものの、余り眼にすることのない昆虫の一つだ。
素手で押さえつけるようにして捕まえ持ち帰った。
手の中で暴れ回り握った手から逃げ出そうと、その強靭な前足で指の間を掻き分けようとする、その少し痛い感触が少年の頃の風景に繋がっていた。
少年の頃捕まえたオケラを牛乳瓶に入れて暫く飼ったことがあるのだ。

「オケラなぜ泣くあんよが寒い 足袋がないから泣くんだよ。」
こんな歌の一節も思い出していた。

お盆前の墓掃除に田舎へ帰らなければならない。
その故郷の風景には少年の頃のものは何一つ残ってはいない。
まるで見知らぬ異郷の光景なのだ。
オケラを撮りながら記憶の中の山や川や田園の姿を思い出していた。
帰省した時には小さな欠片でもいいから遠い昔のよすがを見つけ出してみよう。