老いのかたち(3)

2・3日前から右目の奥に違和感を感じるようになりY眼科へ行く。
休み明けの朝ということもあって待合室は大勢の人で混み合っている。
いつものように待合室の隅っこに空きスペースを見つけて、長い待ち時間をやり過ごすために持参の本を読むことにする。

いろんな講座に出席している時でも繁華街の人混みの中を歩いている時でも、自分の老いてゆく姿を想像することなどほとんど無いのに、病院の待合室に入ると自分の老いてゆく姿を感じてしまうのだ。
耳も目も足腰も弱っている人を見るとつい自分の老いをその上に重ねてしまう。
どんな老い姿になるのだろうかと。

昔読んだ本に、イヌイットの老人が自分の命の終りを察し、ブリザードの吹き荒れる氷原に一人姿を消していくシーンがあったことを思い出している。
昂然と頭を上げ確とした足取りで吹雪の果てを目指して歩く姿に、強烈な憧れを感じている。
老いの姿、死の姿はこんなイヌイットの老人のようでありたいものだ。

眼科に持参した本は、「旅をする木」(星野道夫著・文春文庫)。
数ペイジ残すだけであらかた読み終えた。