備中松山城にて

今日は2ヶ月に1度の定期検診の日だ、心臓エコー検査もあるので少し早めに家を出る。
いつもながら待合室での長い待ち時間にうんざりしていた。
待ち時間の時間つぶしに毎回本を持参するが、今日は中身も確認せずカバーのかかった文庫本を持ち出してしまった。「華厳の思想」鎌田茂雄(講談社学術文庫)だ。
読み始めるが集中出来ないで字面を追うだけになっている、もっと気軽に読めるものを持参すれば良かったのにと後悔していた。

眼をつむってうつむいていると前の席でガタンと音がする。
思わず眼を開けてみると70歳半ばを過ぎたと思われる夫婦が座ろうとしているのだ。
大柄な夫は足が悪いのかゆっくりと腰を下ろしにかかる、それを白髪の小柄な婦人が両手で支えて座らせているところだった。

この老夫婦の姿を見ていて、先日カミサンと遠出した時に登った備中松山城で見た老夫婦連れのことを思い出していた。
風貌から見てそのご夫婦は80歳台に近いのではと思われたがお二人共に矍鑠としており、お城への山道では私たちは追い抜かれる有様だった。
息を切らせて辿り着いてみると老夫婦は既に三脚を据えていた。
老婦人の方は石垣に寄り添うように三脚を構えている。
見上げる構図で石垣と白壁とその上の真っ赤な紅葉を狙っているのだろうか。

三脚にレリーズ、それにレンズ先端がが黒いのだ、PLフイルターを装着している、本格的な撮影行のように見えた。
相当の年季の入った撮り手だと思ったのは、老婦人の近くに置かれたカメラザックの上に、旧いコンタックスの645を見たからだった。
カメラが2台それに三脚、結構重たいと思えるものを山城の上まで持ってきているのだ。
敬服した。
私といえば山道を登るには三脚は重いからと車に積んだままにしているのだ。
「お前さん、見習わなくては」自責していた。


私たちも備中松山城で見かけたあの老夫婦のようでありたいものだ。
折々には自分の老躯の怠慢さを反省するために、備中松山城での光景を思い出さなくてはなるまい。