飛べないムラサキツバメ

秋日好天、書斎の窓の外は素晴らしい秋空、青い湖面も綺麗だ。
虫撮りに行かなかったことを後悔している。
あまり開けることのなかった方のレースのカーテンを開けた時、ガラス窓にポツリポツリと茶色や少し黒味を帯びた血の色をしたものが付いているのを見つける。

最初はそれが何なのか判らなかったが、蝶の体液に違いないと思い至る。
これまでこの書斎の窓から、クロアゲハ(1頭)、キアゲハ(2頭)、ルリタテハ(3頭)が飛び立っていった。

蝶たちはいずれもサナギの殻から抜け出し、縮まっていた翅(羽)を伸ばす時翅脈に体液を送り込み翅を伸ばす。
翅が完全に伸びきると余った体液を尻から放出する。
そして飛び立つ前にも体重を軽くするために最後の体液を放出するのだろう。
窓の汚れはこの時の名残だ。お陰で書斎の窓全部の拭き掃除をやることになった。

今、目の前にいるムラサキツバメの前翅は昨日のまま、伸びきることが出来ずにいる。

私は迂濶にも時間が経てば翅は伸びるものと思っていた。
羽化後直ちに体液を翅脈に送り込み完全な形に伸ばしてしまわないと、時間の経過と共に伸びる可能性は無くなるのだ。
この翅の伸びきらなかったムラサキツバメはもう2度と優雅に飛ぶことは出来ないのだ。
デスクの上をほんの一瞬飛び上がって移動するだけだ。
以前にもアゲハの不完全羽化を見たが、翅の伸びきらない事故は羽化時どれくらいの割合なんだろうか。

ムラサキツバメは翅を全開してあの鮮やかな紫色を見せてくれることもない。
たたんだ翅の間から見える紫色を見ながら、飛べ飛べと応援している。