朽木しぐれ

朽木の晩秋の風景を撮りに行ってきた。
家を出る時は雨上がりの空が眩しく輝いていたから、朽木の谷間の紅葉とススキを撮るには良い条件になるはずだと思っていた。だが「おいおい、お前さん朽木に通い始めて何年になるの」と自分を責めなければならないような状況になってしまった。

この時期の朽木には「朽木しぐれ」があることを迂濶にも忘れていたのだ。
人にもカメラにも雨具がないのだ。
この為に幾つもの光と影を撮り逃している。
ススキの向うの暗い山肌に急に一条の光が射し紅葉を輝かせるかと思えば、雲の流れでまた暗くなる。そしてしぐれが始まる。
山肌と杉林とススキの原が光と影の交錯で面白い光景を見せる。
杉林のしぐれる時の暗さと日がさす瞬間のススキの白さが何とも言えずいいのだ。
雨の用意さえしていればこの光と影の舞台をじっくり狙えたのに、しぐれてくれば車に逃げこむようでは納得のショットを撮れるはずもない。

生杉の集落での1シーンが撮れたので今日は何とか救われている。

このおばあさんとしばらくの間話し込んでいた。
いろんなことを話してくれた。
渋柿は皮むきした後竹串に刺して「燻し」それから干すと味も見た目も良くなるとのこと。

お願いして何枚か撮らせてもらう。

おばあさんと別れた後、次の句を思いつき何度か口ずさんでいた。
 陽溜りや 柿むく媼 しぐれ里
俳句らしきものが口から出るなんて始めてのことだ。
写真仲間の T さんは短歌を嗜んでおられるが、こんな情景を眼にしたらどんな歌を詠むのだろうか、それにどんな構図で干し柿作りのこのおばあさんを撮るんだろうか、ふとそんなことを思っていた。