虫撮りに行く

早朝から彼女(ノシメトンボ)は南天の木の定位置に来てくれている。
これで3日目だ。
昨夜あれだけ南天の木やアオキやキンモクセイの樹を丹念に探し回しても見つからなかったのに、彼女は何処に隠れていたのだろうか。

今日の虫撮りは、比良川沿いと旧比良登山リフトの山麓駅跡を目的地にした。
比良川にも入るつもりで長靴も用意しての重装備だ。
この為荷物を車に運びこむのに何度も階段を昇り降りする。
彼女はその度に定位置から飛び出しては、私の頭の上を一回りして元の場所に戻っていく。

川に入るつもりの場所には既に先客がいた。
工事用の車両、資材、かなりの人数の人夫、それにそこは山頂へ資材を運びあげる為のヘリコプターの発着場所のようでもあった。轟音をあげてヘリが何度も行き来している。

出鼻をくじかれた思いで川沿いの道をリフト跡地へ向かう。
登山リフトや比良ロープウェイが動いていた頃は、山頂の比良山スキー場や八雲ヶ原へ虫撮りに行くのも容易だったのに、もうこの歳で歩いての登山は夢のまた夢だ。
夏の日山頂の草原でアサギマダラを追い掛け回したことが思い出される。
八雲ヶ原湿原は今どんな状況なんだろうか、湿原の木道の上でトンボ撮りに半日近くも粘ったのも懐かしい思い出だ。

2時間近く谷間をうろうろしたがたいした収穫は無かった。
収穫が無かったというよりも、獲物を撮りきれなかったのだ。

谷川のアジサイに来たクロアゲハ、見たこともない大型のトンボの仲間らしきもの、これらが撮れていたら、素晴らしい獲物(作品)になっていたろうに、カメラの準備が不完全だったのだ。
メインは100mmマクロ、サブは12〜24mm広角ズーム、昨日のノシメトンボを撮ったときのまま。
狭い谷川とは言え対岸のチョウを100mmマクロではどうしようもない。
急いで300mm望遠を装着するが後の祭り。
「おいおい、なにやってんの、意気込んで虫撮りに出た割にはドジだねぇ」自分を哂っている。
谷川沿いの木々の木漏れ日を考えてストロボも持参しているのに装着していない。
熟したキイチゴを囓っているコガタスズメバチのプロフィールも、お蔭で中途半端な撮り方になっている。本当にドジ野郎だ。

木陰や風の通り道ではさわやかで気持ちがいいが、日差しがきつくなると谷間はじっとりと汗の出る蒸し暑さ、それに獲物も少ないので早々と退散だ。
今日の収穫物の一部。

 ハサミムシ

 森のルビー キイチゴ

不猟でぐったりして帰った私を出迎えてくれるように、彼女は定位置にいた。