虫撮り

深草キャンパスからの帰り道、急に空模様がおかしくなったので、小走りで地下鉄くいな橋駅に駆け込んだ。何年ぶりの走りだろうか。
久しぶりの走りに眩暈のするような鼓動と息切れで、しばらく地下通路で立ち止っていた。
やっと鼓動も収まり眼を上げた時、ひらひらと白いものが眼の前の壁に止まった。
止まった姿は黒っぽい蛾だ。

初めて見る蛾だ。
急いでカバンからコンデジ(GX-200)を取り出す。
呼吸を整えながらそっとカメラを近付ける。
そっと近付けたつもりだがヤツは気配に敏感に反応する。
何度も逃げられ、追いかける。

蛾は飛び立ち着地する時に今まで見た事のない行動をした。
着地する時は頭が上向きで着地なのだが、止まった瞬間、時計回りに回転して頭を下にする。
着地する度に同じ動作を繰り返した。

頭を下にして止まるのには遺伝的な意味が有るのだろうが、必ず時計回りの行動にはどんな謎が隠されているのだろうか。
下向きになるのに右回りだろうと左回りだろうと、結果は同じじゃないのと思ったりする。

カバンを背負ってカメラ片手に、地下通路をウロウロしているジイサン。
通行人は怪訝に思ったことだろう。
階段を下りてきた3人の女子高生は、ストロボを焚いた瞬間の出会いだったから、さぞびっくりしたに違いない。変なジジイ、盗撮だと思われたかもしれない。

改札に入る時、私のうろうろする姿を遠目に見ていた女子駅員に一言。
「すみません、変わった蛾がいたので写真撮ってました」
女子駅員は愛想のいい笑顔で頭を下げた。
私もつられて頭を下げた。

帰宅してすぐに手元の図鑑やネットで調べてみるが分からない。
どこかの昆虫質問箱にでも投稿してみるか。