残り菊

庭先のヤツデの下に白い小菊が咲いている。挿し芽をしたことも種を蒔いたという覚えも無い一株なのだ。鳥がでも種を運んできてくれたのだろうか。

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陽射しは暖かいがガラス戸の向こうは冷たい風が吹いている。残り菊と呼ばれるこの時季の菊を華やかに咲き誇る盛時の菊よりも好しと思う。カミサンも陽だまりの椅子にもたれてこの菊を眺めている。どんな思いを菊に寄せているのだろうか。

 病む妻の視線の先の残り菊       風来坊

 残菊に鋏いれおりガンを病む妻     風来坊

私の中の晩秋の菊(残り菊というよりも枯れ菊)にはある風景が結びついている。もう随分以前だが、奥永源寺の渓谷へ紅葉の風景を撮りに行ったことがある。その帰り道、茶畑から白い煙が立ち上っているのを見つけ車を止めた。茶畑の中の一角が菜園になっており、老夫婦が畑終いのために畑の残存物を燃やしていたのだ。白い煙と時折大きく燃え上がる赤い炎、その向こうの老夫婦、思いがけぬ光景にワクワクしながら茶畑の急坂を登った。ナスやトマトの枯れ枝などを寄せ集め燃やしている。その枯れ枝に混じってかなりの菊がのせられている。まだ萎れきらぬ白や黄色それに斑模様のピンクの小菊もくすぶっていた。立ち上る煙は独特のニオイを放っていた。

素晴らしい風景だったが、残念ながら撮れたのは3ショットだけ。持ち出していたのは富士フイルムのベルビア6本、紅葉の渓谷で使い切っていたのだ。現在のようなデジカメだったら仮に使い切っていたとしてもデータを抹消すればいくらでも新しく使えるが、フイルムでは如何ともしようがないのだ。

畑じまいの野焼きや残菊を見るとふと思い出す光景だ。

永源寺の渓谷、今では遥かに遠い場所になってしまった。