虫撮りの行動範囲が年々狭まっている老爺には、自宅からそう遠くない小さな谷間の畑は虫撮りの格好のフィールドだった。
今日その畑へ行っておっ!となる、段々畑の様子が変わってしまっているのだ。
時季になると白い花を咲かせていた夏蜜柑の木が、無惨なと思われる乱暴さで枝打ちされていた。
夏蜜柑の木はかなり大きかったこともあり、こんもりと茂った枝々には見事なまでの花が咲き、この花に、ナガサキアゲハやキアゲハなどのアゲハの仲間、アカタテハやサトキマダラヒカゲなどのタテハの仲間、ミツバチ、ハナアブなどいろんな虫たちが来ていた。
此処でチョウたちを狙うのが楽しみだった。
竹藪の下の土手には野茨や草苺も蔓を延ばしており、荒れた斜面が面白かった。
夏蜜柑の木の下の草叢にビニールシートを拡げ、持参のサンドイッチとホットコーヒーで遅い朝食を取るのも又楽しみの一つだった。
何という無惨な姿か、剪定と云うよりも枝を叩き切ったという有様、他人様の所有物とは言えその姿に痛みを感じていた。
今年は蜜柑の花の季節の虫撮りは叶わなくなってしまったのだ。
谷間の向こうの畑で、エンドウ、そら豆、ブロッコリーの花を見る。