庭の柚子の実を収穫する時はその鋭い棘に刺されないように細心の注意を払っている。
用心に用心を重ねていたにも関わらず今日は収獲の時、左手薬指の腹を刺されてしまった。


背丈よりも高い所にある実を採り入れようとして、つま先立った状態で葉の茂みに手を入れてしまったのだ。
指先の鋭い痛み、刺した傷口からぷくっと膨れ上がるように出て来る鮮血。
刺された痛みよりも、棘のことを十分確認しないまま柚子の実を掴もうとした自分の頓馬さ加減に腹立たしさを覚えていた。

止血のために指先を強く圧えていて、ふと「棘」という詩集のことを思い出していた。
半世紀も前のことだからその詩集にどんな詩が載せられていたのかは思い出せないが、ガリ版刷りの30頁ほどの小冊子だったこと、恋哀歌のような詩が多かったこと、裏表紙に作者のサインが記されていたこと、感想を聞かせて欲しいというメモが挟み込まれていたこと、これらは憶えている。

棘の作者については随分後になって3児の母になっているという消息を一度聞いただけだ。
ご存命だろうか。