寒鮒釣り

国道161号線沿いにある和邇漁港で釣りをしている人を見かけ立ち寄ってみた。


漁港に係留された船の間に短い竿を出して釣りをしている人が13人程いた。
寒鮒(マブナ)を狙っているとのことだったが、スカリ(魚籠)を水中に下ろしている人は一人だけだったところからみて、釣果はほとんど無いようだった。

この時期の鮒は深みに居て自ら食餌行動をしないこともあって川魚固有の臭みが少なく、甘露煮などにしたら美味いのだが、積極的に食餌行動をしないだけに釣り上げるのは相当に難しい。
「一尺ズレたらアタリなし」などと言われるほどポイントを探し当てるのが大変なのだ。
ピクリともしないウキを見続けている釣り人は何を考えているのだろうか。
それとも全くの無心の境地なんだろうか。

釣り人は皆、寒さ除けのためにフードを深々と被っていた。
だからその表情を見ることはできなかったが、それぞれがそれぞれの思念に身を委ねている、そんな背中つきだった。

ピクリとも動かないウキを見つめながら真冬の湖畔で寒鮒釣りをする、そんな心を空っぽにする時間を持つことが時には大切なことだと思うものの、老兵には出来そうにない。

漁港の端っこに停めた車の中で、サンドイッチとホットコーヒーの遅い昼食を摂りながら、釣り人達を眺めていた。

 水を釣って帰る寒鮒釣り一人     永田耕衣