けもの道(2)

昨日見たけもの道のことから蒲団に入っても様々なことを思い出していた。
お陰で寝付きが悪かったにもかかわらず8時前に目覚め、雪の雑木林に出掛けることにした。
うっすらとだが雪が積もっていたから,けもの道に新しい足跡が付いているのではと思ったのだ。

雑木林には思いの外積雪がなく新しい足跡を見つけだすことは出来なかった。
けもの道も昨日の様子と変わっているようには見受けられない。


5年ほど前虫撮りに出掛けた朽木の奥で人に出食わしたことがあるのだ。
ブッシュの中の細道の角を回った途端の出会いだったから、私は息の詰まる程の驚きで立ち止まった。眼つきの鋭い大柄な老人だった。
いつもだったら即座に出会いの挨拶をし頭を下げるのだが、その時は鋭い目で睨まれているようで驚きを鎮めるのに2・3呼吸もかかっていた。

「何をしとるんかね」低い声でこんな問い掛けがあった。

瞬時の間を置いて私は虫撮りをしていることを話した。
ムカシトンボの羽化があったという新聞記事を見て探しに来たこと、ホタルのシーズンになればホタル撮りに来たく場所探しをしていること等を告げた。
私がカメラを持っていることから私の話に納得してくれたようで、鋭い目が穏やかになる。
それからほんの一刻だが立ち話をした。

その人が鋭い眼つきで私を見たのには訳があった。
今の時期になると他所者の山菜採りが無断で山に入り山を荒らすこと、その山菜の採り方も来年のことも考えず根こそぎ採ること、在所の人が置いてあるミツバチの巣箱に悪戯すること等々。
それにその人はけもの道に罠を掛け獲物を狙う罠猟師だったから、仕掛けておいた罠を荒らされた時の嫌な気分を話してくれた。

あの老人も元気だったら雪のけもの道に罠を仕掛けに出掛けていることだろう。
元気だろうか。