くまぜみ

お盆には一足早いが義父母の墓参りに行ってきた。
お盆の帰省で高速道路の渋滞を避けるつもりの早い墓参りだったが、予想は見事にはずれて名神下り線は天王山トンネル付近から長い渋滞の列、近畿自動車道に入るまで3時間弱かかった。

大阪市内にあるその寺は昔は木造平屋のこじんまりしたお寺だったが、今では黒い石(大理石?)の壁面を持つ4階建てのお寺だ。境内にある山門と寺号を示す石柱がなければ、瀟洒な小美術館にも見える建物だ。
私はこのモダンなお寺より、昔の鄙びた感じのお寺の方が性にあっている。
昔は墓参りの後本堂に上がるきざはしに腰を下ろして汗の引くまで蝉の声を聞いていたが、今はもうそんな風情はない。
黒い石の壁を持つ寺には、木造時代の寺が持っていた手触り、長年の風雨に晒されて来た木のひび割れが持つ人懐こさが感じられないのだ。
昔の寺には松をはじめとしていろんな木が植えられていたが、今では墓地に一本の木しか無い。
しかし、蝉はいた。


クマゼミだ。茹だるような正午過ぎだったので鳴くことはなかったが、カミサンが数えた限りではその一本の木に34匹が止まっていた。
昔のように本堂のきざはしに腰を下ろして、耳をつんざくようなクマゼミの鳴き声を聞いていたかったがそれも出来なかった。
時が逝く、そんな思いで木の下に落ちていたクマゼミを持ち帰った。