翅の破れたヤママユ

玄関前の玉砂利の上に、片方の翅を半分近く失ったヤママユがいるのを見付ける。
ヤママユは死んでいた。

何処からやって来たのだろうか、何処で翅を半分近くなくしたのだろうか、何が原因だろうか、ヤママユの飛翔能力がどれ程あるのか知らないが、片方の翅を半分近く失っていてどんな翔び方をしたのだろうか。
ファインダーを覗き込みながらいろんな事を想像していた。

権現山山麓の雑木林で、ヤママユの大きな薄緑色の繭を拾ったことを思い出していた。
記憶を辿ってみるに、冬の半ばのある暖かい日、冬枯れの雑木林を撮りに行った時だ。
カーボンの三脚を未だ持っていなかった頃だから随分前のことになる。
スチール製の三脚、キャンプ用のガスコンロやコッヘル、それにコーヒーや乾パンまでザックに詰め込んで出掛けている記憶がある。
あの頃は体力もあったし、挽きたてのコーヒーで野点を楽しもう、そんな風流もあったのだ。
しかし今は権現山山麓の冬の雑木林を歩き廻る脚力も、昔のような風流心も、もう残ってはいないのだ、寂しくなる。

翅の破れたヤママユがいろんな事を思い出させていた。