思い出せない人

小学生時代の同級生Sと担任だったK先生から、突然の電話を頂く。
何かの席でSとK先生が同席し、昔話が弾んだ折私のことを思い出して電話を呉れたとのこと。
Sは旧姓でフルネームを名乗ってくれたが、彼女のことが全く思い出せないのだ。
担任だったというK先生についても同じだった。
電話で話しながら、記憶に残っている小学生時代の出来事の僅かばかりの断片を必死でかき集め、つなぎ合わせてみるものの、SのこともK先生のこともおぼろな形にさえなってくれないのだ。

懐かしさのあまり電話をかけてきてくれたというのに曖昧な対応しか出来ず、寂しくなっていた。
対面していれば、老いの風貌の中に遠い昔の顔形の残影を見つけ出し、名前も思い出すことが出来ただろうか、それも叶わぬことだっただろうか、半世紀以上の時間が経っているのだ。

 色は匂えど 散りぬるを 我が世誰ぞ 常ならむ  いろは歌を思い出していた。

比良連山山頂の雪もいつ頃まで残っているだろうか。