草むらから飛び出して来たヤツ

ヨシ原の茂みを抜け農道に出た時、思いもかけない音を聞いた。姿は見えないが1区画向こうの畑からのようだ。グァガッがッッ、バリバリバリ、上手く表現できないがこんな音だ。一瞬止まったかと思うと直ぐにグァリガリと唸り始めるのだ。何事ならんと音の方へ。この爆裂音に驚いたのだろうキジが草むらから飛び出して来、足早に畦道を遠ざかって行った。

田んぼよりも一段高くなった畑の草陰から姿を現したのは、草刈り機を持った小柄な農夫だった。防護用の顔全体を覆うマスクや厚手のエプロンをしているので歳の程はよく判らないが、草刈り機を持って歩く姿は少し腹を前に突き出したくの字だ。年配のように見える。手に持っていた草刈り機は、丸い金属刃ではなくナイロンコードを付けたエンジン機。どうも草刈り機の調子が悪いようだ。再始動する時グァガッ、グァガッと唸りながら白煙を上げる。2度ほど同じ状態が続いた。老農夫と白煙を上げる草刈り機、1ショットしたいところだが、声をかけて作業の邪魔をするのも良くないとシャッターは切らずだ。

畑の畦には掻き上げられた土塊が散らばっているのだろう、草刈り機のナイロンコードが草と乾いた土塊を削る事もあって、老農夫を包み込むよう土埃を上げている。いい構図の被写体なんだよな、そんなことを思いながらしばらくその様子を眺めていた。

老農夫が草刈りの手を休めこちらを見た時、挨拶代わりに軽く頭を下げ、老爺はキジを追いかけて田んぼ道に入った。ヤツを再び見た時は市道を越え向かいの田んぼの畦道にいた。

今日もまずまずの鳥撮りの日だった。それにしてももうもうと土埃を上げる草刈りなんて見たことがない、1ショット欲しかった。