老いのかたち(46)

2階の書斎の戸締まりに上がった時、対岸の明かりがいつになくくっきりと見えた。雨が上がり冷たい風が湖面を吹き渡っているせいだろう。きちっと撮るには三脚を用意しなければならないのだが、三脚は車のトランクに積んだまま。寒風の中車庫まで取りに行くのが億劫なのだ。背当てクッションを窓枠に置きレンズピローにしてカメラを載せ押し付けるようにして1ショットした。

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夜景写真といえば思い出す人がいる。大学時代ふとしたことで知り合った3年先輩のKさんだ。60年安保の頃の学生運動の猛者だった。卒業すると地方新聞社が拾ってくれたよと言って鉾を納め写真部に入った。仕事を離れて撮る被写体は専らが夜の世界だった。私はお盆休みなどで帰省するとKさんの写真と奥さんの手料理を目当てに何度も訪ねていったものだ。

長時間露光で撮った星景写真や車の光跡の風景、林間のヒメボタルの多重露光、夜祭の妖しさ等など素晴らしいショットが幾つも有った。

そんなKさんも故人になって四半世紀が経とうとしている。肺癌で早くに亡くなったのだ。

Kさんが長寿だったらどんな爺さんになっていただろうか。老いてなお夜の光景を追い求めいただろうか。フクロウも老いると目ン玉が弱って、夜の獲物を探すのは無理なんだよな、Kさんだったらそんなジョークでこちらを見ているだろうか。

老いにはさまざまな形がある。