天人五衰

昨年の秋の初め頃から、何かの弾みで「天人五衰」という語句を思い浮かべることが多くなった。今日も定期検診に行った病院の待合所で旧い知人のSさんを見かけた時、あっ!という思いと同時にこの言葉が頭をよぎった。

小柄な老爺がよたよたという感じの覚束ない足どりで呼吸器科の診察室へ向かっているのだ。診察室のドアに手を掛けたその横顔は、昔日の面影を僅かに残すだけで別人の風貌になっているのだ。呼び出しのアナウンスの声が聞こえなければSさんとは気付かなかっただろう。

Sさんとは同じゴルフ倶楽部に所属していたことから長い付き合いだった。おしゃれでセンスの良い服装をいつもしていた。小柄だったから飛距離はあまり出なかったが、正確なショットとパターの上手さでコンペの時にはいつも上位にいた。乗用カートに乗ることを好まずいつも颯爽と歩いていた。私が林などに打ち込んだボールをよく探してくれたものだ。ゴルフ練習場でもよくご一緒した。その折の休憩時の話題はほとんどがSさんが提供してくれたし、情報の豊富さと話し上手に引き込まれ、時の過ぎるのを忘れていたこともしばしばだった。いろんな思い出がふつふつと湧き上がってきている。

そんなSさんの何という変わりようだろうか。風貌も変わり歩き方も変わり、身につけているものもどことなく薄汚れて見えるのだ。時の流れがSさんを酷く傷めつけているようだ。天人五衰、いわんや人においておや。寂しさを痛いほど感じている。

 

彼も老い 吾も老いたり 山は雪   風来坊

 

小雨の降り止んだ時、寒雀の孤影を見る。

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