アオイトトンボ

小さな谷間に設えられたコンクリート製の用水槽では、アオイトトンボの交尾活動が盛んだった。
用水槽一面に広がるスイレンの葉の上には、数えた限りでは7組のペアがいた。
単独のヤツは2匹のみ。


虫たちのポートレートをテーマの一つにしている。
イトトンボの貌が欲しいと、用水槽の縁に肘をつき180mmマクロのファインダーを覗き込む。

水平になる位置から真正面になる貌が狙いだが、用水槽の水位が低いこともありどうしても上からの視線になって、欲しいポートレートは手に入らない。
180mmから100mmマクロに切り替えたり、バリーアングルの効くEOS70Dにレンズを装着し直して水面ギリギリまでカメラを下ろしたりと、小一時間四苦八苦していたが、お気に入りの1ショットは撮れずだった。


夢中になっていた所為で、背後に人が立っているのに気付かなかった、突然の声に驚く。
麦わら帽子を被った中年の男性、「何を撮っているのかね」「ここに入られると困るんだ」「すぐに出ていってくれるかね」
谷間の畑の所有者のようだ、声音からして不審者に対するトゲのようなものが感じられた。
用水槽にいるイトトンボを撮りに来ていることを説明する。
虫撮りはもう随分長い間やっているがこんな声を掛けられたのは初めてだった。

トノサマガエルとイトトンボの組み合わせの1ショットが欲しかったが、荷物をまとめてそそくさと退散する。