老農夫と走り去るキジ

田圃道に三脚を据えキジ撮りをしているとよく声をかけられる。
不思議なことに声をかけてくるのは決まって老爺だ。
顔馴染みが5人ほどできた。
今日、声をかけてきた老爺ははじめての人だったが、私がキジを追いかけているのを承知しているようだった、作業の手を休めて1区画離れた場所にいる私の所まで、ヨシ原の中にキジがいることを教えに来てくれたのだ。


耳が遠くなっている老爺同士、かなりトンチンカンなやり取りだったと思うが、問わず語りにいろんな話をしてくれた。
  今日の作業はスイカの玉の下に敷くためにヨシを刈り取りにきたこと
  耕作放棄地が増え雑草の種などが飛んできて迷惑していること
  跡継ぎの息子が耕作放棄して町へ出ると、必要な共同作業が出来ないこと
  肥料代や農機具を新しくしたりするとその費用が嵩んで、収支が合わないこと
  10日程前、農道を横切っていくキジのつがいをみたこと
  昔は麦を作っていたがここらでは作る人がいなくなったこと etc.

話に夢中になっていたが、老爺の軽トラの側にキジが現われたのを見付け、話を中断し追いかける。

小柄な老爺は85歳とのことだったが矍鑠としていた。
日月が逝き自分が85歳になった時どんな状態なんだろうか、野良仕事をしていた老爺のようにボケずに矍鑠としていられるだろうか。
老爺が運転する軽トラが遠ざかっていくのを眺めながら、老いのかたちを想像していた。

帰り道、田圃の畦道を走り去ったキジが田圃4区画分向の草原に姿を現しているのを見た。


本日好日、呆けずに済んだ。